【出典】「日経パソコン」1991年2月18日号
トピック・レポート―業界-剣が峰の統⼀規格MSX-ソニー、三洋は新規格パソコンを⾒送り
アスキーは16ビットの新規格「MSXturboR」を打ち出したが、MSX陣営3社のうちソニーと三洋電機はパソコン発売を見送った。松下電器のMSXturboR「FS-A1ST」は売れ行き好調だがソフトの対応が不透明で8年目を迎えるMSXは岐路に立たされている。
(中略)
83年に米マイクロソフト社とアスキーが家庭用8ビット・パソコンの統一規格として提唱したのがMSX。松下電器、ソニーなど家電メーカーを中心に13社が市場に参入した。最盛期の84年から85年にかけては年80万台以上を出荷し、昨年4月には国内外合わせて累計413万台に達した。
ところが、ゲーム中心のユーザーが多いMSXにとってファミリーコンピュータという強敵が出現し、さらにハードウエアが 8ビットから16ビットへと移り変わるなか、出荷台数は次第に落ち込んでいった。それとともにメーカー数も減り、最終製品のパソコンとしてMSXを生産するメーカーは松下電器、ソニー、三洋電機の3社だけとなった。
起死回生をかけて発表されたturboRだが、製品化しているのは松下電器ただ1社。松下電器と人気を二分していたソニーは「当面製品化予定はない」としている。三洋電機も「永久にやらないとは言えない」と将来に含みを残しつつも、「AXパソコンに集中投資するため、turboR製品化の計画はない」(直木武情報システム事業本部国内販売事業部コンピュータ企画部)と明言する。
(中略)
一方、ソフトウエアの面でも、アスキー以外にturboR専用ソフトを発売しているのは今のところ2社のみ。いまだ態度を決めかねているソフトハウスも多い。
「信長の野望」「三国志」などの歴史シミュレーション・ゲームで有名な光栄では「turboRに対応していきたいが、まだ評価中で具体的な製品計画はない」(襟川陽一社長)と慎重な姿勢。ロールプレイング・ゲームで多くのヒット作を持つ日本ファルコムの加藤正幸社長は「対応したいが、開発要員がMSXに興味を失いつつある。今後の予定は白紙の状態」と渋い表情だ。
統合ソフト「HALNOTE」などを販売するHAL研究所の岩田聡企画開発部長は「今のMSX用に実用ソフトを作っても採算が合わない」と断言する。「かといって、これまでのユーザーを切り捨てられないので、バージョンアップのようなリスクの少ないやり方で対応する」(岩田氏)という言葉には、ユーザーとビジネスの厳しさに挾まれたソフトハウスのジレンマが感じられる。
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A1STは90年末までに3万台を出荷した。当の松下電器でさえ「これほど売れるとは予想していなかった」(竹内雅之松下電器産業情報機器本部ワープロ事業部営業部商務課販売助成係長)と率直に認めている。だが「しばらくは堅調だろうが、新規ユーザーの需要を掘り起こさなければ大きな発展は難しい」(中嶋氏)と指摘する声は少なくない。
(中略)
パソコン業界で数少ない統一規格として7年以上も互換性を保ってきたMSXを「誰でも手軽に使える入門機として果たした役割は大きい」(襟川氏)と評価する声が多い。「200万台以上が輸出または現地生産され、20カ国語以上に対応した日本製パソコン」(松田辰夫アスキー システム事業部開発推進部長)である点も見逃されがちだ。
だがそうした評価は必ずしもMSXの未来を約束しない。「16ビット化が1年早ければ、事態も変わっていただろう」(岩田氏)という厳しい指摘にアスキーの高橋氏も「本来ならば89年に発表したかった」と本音を明かす。
いまは亡き任天堂(当時HAL研)の岩田さん、シプサワ・コウこと襟川さんによる厳しいながらも正確な見立て。
ファルコム・加藤社長の発言からは「ソーサリアン」がなかなか移植されなかった理由が垣間見えます。
また、出荷台数など具体的な数字も出ており、貴重な記事として紹介しました。
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